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since 2008/9/17 ネットの片隅で妄想全開の小説を書いています。ファンタジー大好き、頭の中までファンタジーな残念な人妻。 荻原規子、上橋菜穂子、小野不由美 ←わたしの神様。 『小説家になろう』というサイトで主に活動中(時々休業することもある) 連載中:『神狩り』→和風ファンタジー 連載中:『マリアベルの迷宮』→異世界ファンタジー 完結済:『お探しの聖女は見つかりませんでした。』→R18 恋愛ファンタジー 完結済:『悪戯なチェリー☆』→恋愛(現代) 完結済:『花冠の誓いを』→童話 完結済:『変態至上主義!』→コメディー
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別の世界に旅立っちゃうんだぜ

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クロヴィス・エルロンド(clovis Elrond) 
・皆にはあまり知られていないがドラゴン馬鹿
・スイッチが入るとドSになる
・基本的には敬語、親しい間柄になると砕けた口調に。
親しくない| 「貴殿」「貴方」「君」「お前」 |親しい
こんな感じ。
・チェスデレと言わしめるほどにチェス中毒者。どうしようもない。
・調教用の鞭を腰に下げている
・戦場では男も女もなく平等、女子どもが立ち向かってきても容赦しないことが礼儀だと思っている
・例え友人のヴァレリーだろうが、兄のバルベリートだろうが、対峙しても躊躇わず剣を抜く覚悟は出来ている。
・自分のことは二の次。とにかく、パートナーや仲間が助かればいい。アグリア亡命以来、切り捨てられることにたいして、とても鈍感になってしまっている。
・ただ、自分がいなくなることで部隊の機能が停止するのは困るため、人材育成にはかなり力を注いでいる。自分なしでもたちゆくような部隊作りを目指している。
 
【経歴】
0歳 エルロンド家次男として誕生
6歳 父からチェスを与えられる
7歳~ 父に連れられて、騎士団に出入りしていた
16歳 アグリア騎士団入団
17歳6か月 中級騎士昇格
19歳 ヴィオラ死亡、上官暴行罪で1か月の謹慎を命じられる。亡命  
19歳6カ月 イグニア騎士団入団
20歳 中級騎士昇格
21歳 上級騎士昇格 
現在23歳(今年24歳になる) 
【戦いとか】
特定の武器は持っていない。状況に応じて、武器は変える。
強いて得意な武器を上げるとしたら、
片手剣=槍>弓>短剣>両手剣
突出して何かに秀でているわけではない。器用貧乏。なのでよく、色々と無茶振りされる。
・肉弾戦は得意ではないため、ガチのパワー勝負を挑まれたら多分負ける。
・急所を一撃で狙う。
・奇襲が得意
・どっちかっていうと、戦略とか立てて、用兵術を駆使するほうが性にあってると思う。
【趣味】
チェス
【家族構成】
父:ジョセフ
アグリア騎士団の騎士長。
出奔したクロヴィスと、対ドラゴン用変態のバルベリートに頭を悩ませている苦労性なお父様。自分が他の任務に就いている間に、妻を殺され、クロヴィスも亡命してしまったことを屋敷に帰ってきてから知る。クロヴィスには幼いころから騎士としての英才教育を施し、今後アグリア騎士団を支える人材として手塩にかけて育ててきたのに失ったことで、最初かなり落ち込んでいた。しかし次第にその元凶となったブータンディッケに腹が立ってきて、引退をほのめかされたにも拘わらず居座り続け、いつかブータンディッケとその背後に巣食うものを引き摺りだすまでは騎士を止めるつもりはないらしい。
兄:バルベリート(29歳)
アグリア医療班の部隊長。
変人というか、対ドラゴン用の変態。ドラゴンしか診たくないが、頼まれれば皮肉を言いつつも人を診ることもある。例え生きていても、助かる見込みのないドラゴンには絶対処置を施さない。それでも卵生む体力がありそうなドラゴンには、薬を与えて卵を産む道具にする。
ドラゴンに並みならぬ愛情と執着を抱いているが、その方向性が果てしなくおかしいため、クロヴィスからは敬遠されているが、そんなクロヴィスを構って嫌な顔をさせるのが楽しくて仕方がない。ドラゴンの養育について指導したりすることもある。できることなら擬人化なしでドラゴンと性交してみたいとか考えてる。変態変人だが有能で、誰も彼を部隊長の座から引きずり降ろせずにいる。
ドラゴンは道具、その考えを否定はしないが肯定もしない。
亡命したクロヴィスのことは、「そういうことなら仕方あるまい。止めようもないからな」と、お父様にぽろりと言ったとか何とか。
変人だが、家族のことは大切。未婚。
 
弟:フィリクス(19) 
織物師。現在のクロヴィスのチェスの相手。連敗記録更新中。本当にエルロンド家の子かと関係者から疑われるほど、温厚な性格で争いごとは苦手。
妹:リズベット(19)
刺繍師。エルロンド家のお姫様状態で、かなり甘やかされて育ってきた。ドラゴンに対しては、クロヴィスの考え方に近く、家族と生死を共にする、大切な存在であって決して道具ではないと思っている。ブラコンの腐女子。敵味方構わず、騎士たちを掛け算して楽しんでいる。
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冷たくなった両手にはあっ、と白い息を吹きかける。
 対面に向かって座る兄のバルベリートは、小さく欠伸をしてつまらなそうに外を眺めていた。
 曇ったガラスを袖で拭い、外の景色を覗き込んだクロヴィスは、そっと息を呑んだ。
 すっかり雪化粧を纏った町並み。白雪に包まれた町の中を、ゆっくりと進む馬車には、剣を交差させた中に百合の花をあしらった、エルロンド家の家紋が描かれている。
 市街地の中心に向かうに連れ、景色は変わっていく。
 それまでは銀世界に包まれていた風景が、ぽつり、ぽつりと家々に篝火が灯り始めた。
「バルベリート兄上、あれはなんですか?」 
 クロヴィスは初めて見る景色に目を輝かせた。
 バルベリートはたいして興味もなさそうに、クロヴィスが視線を向けた方へ一瞬だけ顔を向け、それから目を閉じて答えた。
「今日はフラーマの火祭りだよ。知らなかったのかクロヴィ」
「はい」
「年に一度、フラーマの町で開催されるのだ。家の前で篝火を焚いて、町の中央広場では櫓に火をつける。櫓には男たちが乗っていて、火を焚きつけられないように攻防戦を繰り広げるわけだ」
 火竜の生まれるアグリアでは、年に一度、炎に纏わる祭りが開催される町があった。ガルバス火山にほど近い町、フラーマ。家々には篝火が灯り、街全体が暖色に包まれて、大通りは道行く人の活気で賑わっていた。
 櫓に火をつけるのは、ガルバス火山で今年生まれた火竜。ドラゴンを相手に、町の男たちが命がけで櫓を防衛する。祭りが最高潮に達したときに、櫓はどのみち燃やされるのだが。命を賭した祭りに、漆黒の鎧を纏ったアグリア騎士団も警護に参加するらしく、バルベリートも参加したことがあるのだという。
 時に死傷者多数、そんな危険な祭りだが、不思議と毎年行われ、中止になる気配はない。
 武勇を愛する軍王の膝元だからなのか、軍王の興味が民生に向いていないせいなのかは知らない。
 そんな面白そうな祭りがあると知っていたら、ヴァレリーだって誘ったのに。
 クロヴィスは、頬杖をついて漫然と外を眺める兄に、ため息をついた。
 普段は見ることもできないものめずらしい景色に、胸が躍る。バルベリートに断りもせずに窓を開けると、バルベリートが苦々しく言い放った。
「クロヴィス、寒い。窓を閉めたまえ。こうなるのだったら、お前と同伴などするのではなかったよ……」
「寒かったらそこの毛布にでも包まっていればいいではありませんか」
「まったく、生意気になったものだな我が弟は……」
 バルベリートは苦々しく呟いて、綺麗に折りたたまれていた毛布を手繰り寄せて頭からひっかぶった。
 大通りに差し掛かったところで、さらに賑やかになる。周辺の町からは行商人やイスタール中を巡り歩く一座が集まる。大陸から取り寄せたという珍しい品物や、金紗、銀紗のヴェールに身を包んだ踊り子たちが火の粉の中で舞う姿は華やかだ。ガルバス火山の麓の町ならではの行事はアグリアでもちょっとした名物になっていて、普段はたたら場と武器の町として名高いフラーマが、一気に観光地に様変わりする。
 火竜との攻防に使われるのは、武器職人が腕によりをかけた、今年一番の名剣である。
 その名剣を決める大会というのも、火祭りが始まる一週間ほど前から開催されており、それぞれ自慢の剣が並べられるというのだ。
 バルベリートは、そんなことも知らないのか、とクロヴィスを嘲笑いながらも、クロヴィスがあれこれたずねれば逐一丁寧に教えてくれた。クロヴィスは知らないことばかりで、聞けば色々と答えてくれるバルベリートに感心しながら、耳を傾ける。バルベリートはただのドラゴン偏愛者ではなかったようで、一応世間の常識というものを、弟のクロヴィスよりは知っているようだった。
 クロヴィスの後に続いて馬車を降りたバルベリートは、寒気に身震いをして、毛皮のマフラーを巻きなおし、外套で首元をしっかり覆った。
「しかし見たまえ。あの踊り子たち。こんなに寒いというのに、臍を出して……見ているだけで鳥肌が立ってくるようだ。火祭りの前座だろうが、一体だれがあんな下着姿同然の娘を見て喜ぶというのかねえ」
「それは、バルベリート兄上は嬉しくなくても、世の中の大半の男は女性の見え隠れする白くてやわらかそうな肌を見て喜ぶのだとヴァレリーが言っていました」
「お前の親友はいつも、実にお勉強になることを教えてくれるな」
 皮肉げに口の端を吊り上げるバルベリートが示した踊り子に、クロヴィスも視線を向ける。
 ひらひらとした踊り子の衣装。裾がふんわりと膨らんだパンツに、臍が出るほど丈の短いチュリ。ほっそりとした腰周りは頼りなく、燃えるようなふわふわとした赤い髪をまとめるリボンが、踊りの律動に合わせてふわり、と揺れる。蜻蛉の羽のように薄いヴェールで身を包み、細い腕や足首には金の腕輪や飾りをつけ、飛び跳ね、舞うたびにしゃらん、と涼しげな音が鳴る。
 自分と同じくらいかもしかしたら年下かもしれないような、可愛い踊り子に、クロヴィスの視線は釘付けになった。
 くるり、と踊り子がクロヴィスの方を向く。
 少し釣りあがった、大きな蒼い瞳。猫のようにしなやかな動きで、とん、と舞う。
 刹那的に緑と蒼の視線が交わり、少女は花咲くように、にっこりと微笑んだ。一瞬だったが、確かに自分に向けられた笑みに胸が高鳴る。可愛い女の子だった。
 何かあげるものはないか、ポケットというポケットをまさぐり、ひっくり返してみるが、踊り子の少女に上げられそうなものは見つからない。出てきたのは銀細工のナイトの駒だけだ。クロヴィスだったら、チェスの駒をもらえば嬉しいが、多分少女が喜ぶものは花とか金とか、きっとそういうものだ。
 寒さであかぎれた手足は、見ているこちらが痛ましい。
 雪の上でも滑ることなく舞う姿は、たとえ小さかろうが玄人なのだと思わされる。
 ――と、思っていたら。
「きゃっ!」
 それまでにこにこと笑みを絶やさずに踊っていた少女が、雪の上をつるん、と滑って転んだ。
 クロヴィスは目を丸くし、バルベリートは瞬時に少女の細い腕を掴んでいた。
「馬鹿なのかね君は。雪の上であんな風に踊っていれば、転ぶのも時間の問題であったよ」
 バルベリートは少女の腕を適当に放し、へたり込んだ彼女を嘲るように見下ろした。
「兄上!」
「猿も木から落ちるという言葉を知っているか」
「え……?」
 少女は降りかかった粉雪を払いながら、戸惑いに瞳を揺らす。
「慢心は危険を呼ぶのだ。分かるかね? それから、その臍はどうにかならないのか? 見ているこっちが寒い」
「これはそういう衣装なんです! あと、まんしんって何ですか!」
「これは失礼、お嬢さん。噛み砕いて言えば、思い上がり、うぬぼれ……といったところだろうか」
 バルベリートはその場にしゃがみこみ、裾の膨らんだパンツを捲り上げて、無造作に少女の足首を回した。
「なっ……!」
「腫れていないし、可動も問題ないな。痛みもなさそうだし、折れていることはまずなさそうだね。まったく、雪の上で踊るなんて馬鹿な子だ」
「兄上、なんて失礼なことを!」
 クロヴィスは思わず額を押さえ、少女とバルベリートを引き離してから、冷たい雪の上にへたりこむ少女に近寄り、手を差し伸べ、少女が立ち上がるのを手伝った。
「大丈夫ですか、どこも打ったりしていませんか?」
「大丈夫。ありがとう」
「すみません、僕の兄が失礼なことばかり……」
「兄弟なの?」
「一応ね」
 苦笑いを浮かべるクロヴィスに、少女はくすりと微笑んだ。
「一応?」
「髪の色は違うけど、目の色が同じでしょう?」
 そういったクロヴィスの瞳と、バルベリートの瞳を交互に見つめ、少女はうなずいた。
「そうね、似てるわ」
「それほど嬉しくない言葉もありませんが」
 クロヴィスは肩をすくめ、慇懃無礼に立ちすくむバルベリートを見上げた。
「私は嬉しいがね。社交界では天使と名高いクロヴィスと、悪魔の異名で敬遠されている私が似ているとは、嬉しくてむせび泣きそうだがね」
 大仰に胸に手をあてて、バルベリートは答えた。
「あなたのお兄さん、だいぶ変な人なのね……」
 少女の言葉が胸に刺さる。否定できないところが悲しい。
「そうだ! 火祭りが始まる前に、また中央の広場で前座をやるの! よかったら、見にきてね!」
 冷たい手がクロヴィスの手に重ねられる。
 にこっと微笑み、そのまま少女はクロヴィスに背を向ける。燃えるような紅い髪が揺れる。最後に振り返って大きく手を振り、叫ぶ。
「必ず来てね!」
 クロヴィスの目の前を可憐に通り過ぎていく少女の姿を見送って、ぽつりと呟く。
「あんな小さい子もいるんだ……」
「小さい? クロヴィス、お前今いくつだね?」
「十三歳です」
「お前も立派に小さい子だよ」
「それは、兄上からしたら私もヴァレリーもお守りが必要な小さい子扱いでしょうけどね」
 肩をすくめるクロヴィスに、バルベリートは薄笑いを浮かべて返した。
「お前とヴァレリーを同列にしては、ヴァレリーがかわいそうだがね。まあ私からすれば、ヴァレリーだってお前だって、大して変わりはしない」
「それはどうも」
 むっつりとして返せば、バルベリートは外套を翻し、クロヴィスへと背を向ける。
「こんなところで油を売っている暇はないのだ。いくぞ、クロヴィス」
 このフラーマの町に立ち寄ったのは、父の使いで、刃こぼれした剣を受け取りに来ただけなのだ。クロヴィスはあからさまに大きなため息をつき、むくれて路肩に積もった雪を蹴り飛ばした。
 当てるつもりはなかったが、雪の塊がバルベリートの後頭部に直撃する。
「クロヴィス!」
「あ、ごめんなさい。わざとではありません! それに、中級騎士の兄様ならそれくらい避けられるかと思った」
「……行儀が悪い子だね、まったく」
 ぶつくさ言いながら、バルベリートはクロヴィスの手首を掴んで引き寄せた。
「大人しく私の隣を歩いていなさい」
「子供じゃないんですから、手を離してください」
「駄目だ」
「どうして」
「手を離せばまたふらふらするだろう、クロヴィ。一応私はお前の保護者だ」
「へえ。それは知りませんでした。で、いつまで?」
「期限などない。お前がエルロンド家に私の弟として生まれたときからそういう運命だったのだよ。お前の保護者である以上、ヴィオラも私の保護下にある。それだというのにお前ときたら……」
 クロヴィスは心底嫌そうに顔を顰めた。
「ヴィオラは関係ないでしょう!」
「ある。私にとっては大事な問題だ。お前を間に挟まねば、ヴィオラはまるで雪の女王だ。その冷たさがまたいいのだが、ヴィオラに近づくためにはお前が必要だ。だからこれからも私はお前の保護者だ」
「……ああそうですか、ご勝手に。もう何もいいません」 
  
「こちらがお預かりしていた剣になります」
「いつもすまないね」 
 両手を炉にかざして暖を取っていたクロヴィスは、バルベリートが剣を受け取って振り返った瞬間、口を開いた。
「火祭りにいこう」
「何故」
「火口ドラゴンの幼竜が見られるなんて、滅多にないし」
「――クロヴィ」
 バルベリートが言いかけたときだ。
 上空を横切る黒い影。鳥かと思ったが、それは一瞬のうちに姿を消す。
「火口ドラゴンが降りてきたー! 祭りが始まるぞー!」
 誰かの叫びとともに、大通りに大きなどよめきが起こる。
 何事かと店の外をうかがえば、黒光りする鱗に、白い鉤爪。裂けた口から漏れる熱い吐息は硫黄の香りで、陸上をどの生き物よりも早く、雄雄しく駆ける四肢は逞しい。大人と同じくらいの大きさの火竜だった。
 クロヴィスの後ろから外を覗き込んだ工房の主人は慌てるわけでもなく、のんびりとした口調で言った。
「始まったようですね」
 クロヴィスは話も聞かずに飛び出した。火竜を近くで見るのは初めてだ。
「全く、嫌なタイミングで始めてくれるものだね」
 ぼやくバルベリートの声は、クロヴィスの耳には届かない。
 雪の路面を駈けて中央広場まで行けば、櫓に五人ほどの男が乗り、その櫓を取り囲むように大人くらいの大きさのドラゴンが二匹、牙をむいて向かっていた。
 
 祭りが始まろうとしている。
 バルベリートはクロヴィスの後ろにぴったりとくっついて、やれやれと大きくため息をついた。
「お前といると飽きないよ、クロヴィス」
 しとしとと、糸のように降っていた雨はいつの間にか止んでいた。樹齢数百年の大樹の下で雨宿りをしていたクロヴィスは、晴れ間の除く茜色の空を見上げ、手をかざした。
 濡れた玉葉は輝き、つうと落ちる冷たい滴が薄い唇の上に垂れ、なだらかな顎と白い首筋を伝って消える。瑞々しい緑は、西陽を浴びてますます鮮やかに色づいている。ひとつに括った亜麻色の髪を揺らし、不機嫌そうな二人へと声をかけた。
「晴れたみたいだ」
「通り雨だったか」
 腕を組み、大樹に寄りかかっていたヴァレリーは、額にかかる蜜色の髪を鬱陶しそうに掻きあげた。静かな湖面の底のような碧い瞳が物憂げに空を見上げている。
 老若男女問わず虜にして続けている魔性と呼び名の高き彼は、クロヴィスとは付き合いの長い友人だ。
ヴァレリーが騎士団に入団してからは交流が途絶えてしまうかと思いきや、父や兄への入用で何かと騎士団には出入りしており、休日は時折狩りに付き合った。何より、手ごたえのあるチェスの相手といえば、ヴァレリーくらいしか居らず、結局、ヴァレリーとは頻繁に顔を突き合わせている。
 連休を勝ち取った、故に久しぶりに狩りに付き合え――そんな書簡が届いたのは、つい先日のことである。
 ため息を吐きだし、ヴァレリーは不機嫌そうに柳眉を寄せた。
「興醒めだ」
「雌鹿を逃したのがそんなに悔しかったのか?」
「あれは、絶対この森の女王だった。美しい毛並み、しなやかな肢体。この手で仕留めたかった」
「天の采配だ。諦めろ」
 悔しそうに歯噛みするヴァレリーの肩を軽く叩いて、クロヴィスは苦笑を浮かべた。
そのまま、大樹の根元に座り込んだまま立ち上がろうとしないレダを振り返り、クロヴィスは声を掛けた。
「レダ、大丈夫か?」
「無論だ。私に構うことはない」
 服が濡れて肌が透けてしまったレダの為にクロヴィスが貸した上着を掻き寄せ、レダはぞんざいに返した。
「しかし、酷い目にあったものだ。狩りを続ける気にもならぬ。私は帰るぞ」
 立ち上がり、身にくっついた落ち葉と土埃を振り払い、レダは肩にひっかけていた上着をクロヴィスへと押し付けた。生乾きのそれを受け取り、クロヴィスは首を傾げる。
「今日は実家に泊まるのか? 服がまだ濡れているだろう。私の上着なら、ヴァレリーか兄にでも返しておけばいい。後で回収する」
「善意だけありがたくいただく。気づかいは無用。……私は寮に戻るつもりだ」
 きっぱりと言い切って、レダは馬の手綱を引き寄せた。
 明けて次第に白みゆく空と同じ薄紫の髪。冬の空と同じ灰色の瞳。背筋を伸ばした凛として怜悧な佇まいに、つい見惚れる。
 古くから騎士の家系たるエーゲシュトランド家とは、エルロンド家もそれなりに付き合いが長い。レダとも、数年来の行き来があるわけだが、何年たっても彼――いや、彼女の隙は見当たらない。
 クロヴィスも、父の書斎でレダの名と性別を記した騎士団員の名簿さえ見なければ、レダが女性であるとは気付かなかっただろう。
 男にしては少し線が細いと思ってはいたが、クロヴィスとて人のことは言えない。
少年のあどけなさを残すクロヴィスは、未だ、黙ってその辺に立っていれば女と見紛われることもあった。右の目元に色めく泣き黒子。引き締まった伸びやかな四肢は発達途上で、背丈も高いとは言い難い。絹のような質感の亜麻色の長髪は、日常下していることが多く、更にレダと一緒にその辺を歩けば、奇妙な視線を向けられる。最悪、いきなり腕を掴まれ路地に連れ込まれそうになったこともあった。
 しかし、仮にも幼い頃より騎士としての教育を受けてきた身だ。素人にどうこうされるほど、クロヴィスも弱くはない。
 軽やかに騎乗したレダを見上げ、ヴァレリーは肩を竦めた。
「ほう。真面目なことで。連休くらい、騎士団から離れたいとは思わないのかね?」
「卿はもう少し真面目になれ。私はできうる限り早く上に立って、そのうち卿を顎で使ってやろう」
「それはご勘弁を。私は適度に楽しめればそれでいい」
 ヴァレリーは人を食ったような笑みを浮かべた。
「ふん、卿は一度、カスパル騎士長かジーク上級騎士にでもしごいてもらえば宜しかろう。動けなくなるほどに」
 下級騎士の間で秘かに恐れられる騎士の名を、レダが皮肉めいた口調で上げれば、ヴァレリーはぴくりと肩を震わせた。
「またそのような戯言を」
「臆しているのか。ヴィランタン公の御子息ともあろうお方が?」
 喉の奥でくっと笑い、レダは手綱を取って馬をゆっくりと進めた。
 風に乗って緩やかに流れる雲の群れは、暮れゆく空で黄金に輝いている。辺りに人の気配はなく、涼しげに擦れ合う木々のざわめきと、蜩(ヒグラシ)の鳴き声だけが響いていた。
「私は先に帰る。クロヴィス、卿は? お母上も心配しておられよう。途中まで送っていく」
「そんな、年頃の娘でもあるまいし、大丈夫だ」
「この間、街を歩いていて路地に連れ込まれたのはどこの誰だ」
 呆れた、と呟くレダに、クロヴィスは目を眇めた。
「連れ込まれたが、騎士様が助けに来てくれただろう。俺のことを美少女だと勘違いしたどこかの色魔が」
「何だ、クロヴィスの話していた騎士とは、卿のことだったのか」
 レダの視線の先には、片手で顔を覆うヴァレリーの姿があった。
「言わないという約束はどうなった!」
「――そのような約束を交わした覚えは……あるな。いやしかし、実名は出していない」
 納得のいかない表情で、クロヴィスは長い指を顎に当てて俯いた。
「実名にどれほどの意味があると! 今の説明で、私だと特定しているようなものだ!」
「まあそう怒るな。相手はレダだ。レダの洞察力と推察力ならば、自ずと発覚したことだ。良かったではないか」
 悪びれる様子もなく返すクロヴィスに、ヴァレリーは再び顔を覆った。
  ◇
 寮に戻るレダと分かれ、クロヴィスとヴァレリーはなだらかな勾配の続く静かな林道を、馬を並べて歩いていた。
 先ほどから二人の間には沈黙が横たわっている。しかしそれは、決して気まずいものではなく、むしろ居心地の良いものだった。
 話したいことは沢山あった気がする。しかし、いざ面と向かうと、特に何もないようにも思える。
 ヴァレリーが騎士団に入る前は、しょっちゅう互いの家を行き来していたわけだが、今となってはそれも皆無だ。たまに用事に赴いた時に、ヴァレリーと夜が明けるまで賭けチェスをやる程度で。
「クロヴィスはいつ見ても小さいままだな」
 唐突にヴァレリーが言いだす。クロヴィスとヴァレリーの身長差は、丁度十五センチ。常にクロヴィスの旋毛が、ヴァレリーからは丸見えの状態である。上から視線を感じ、クロヴィスはむっとヴァレリーを睨んだ。
「これから伸びる」
「さあ、どうかね」
 ヴァレリーは肩を竦め、むきになるクロヴィスを鼻で笑った。
「俺はまだ十四だ。成長の余地はある。対してお前は成長期を脱した。今後の発展見込みは皆無だ」
「成長したとしても、クロヴィスはこの先も、私よりもチビに違いない」
「あと三年すれば、お前の身長なんてあっという間に追い越してみせる」
「その頃には私ももっと伸びているかもしれない」
「ではそこで止まっていろ。とりあえず俺がそこに到達するまで待っていろよ。なんなら地面に埋まっていてくれないか」
「無茶を言わないでくれたまえ。さすがの私も、自然の成り行きには逆らえんよ?」
 呆れ返った様子でため息をつくヴァレリーは、以前見た時よりも大人びているようだった。クロヴィスの知らない、見えざる世界が、ヴァレリーにはあるのだろう。
 クロヴィスがその世界を知る頃には、ヴァレリーはまた別の世界の扉を叩いているだろう。
 三年の差がもどかしく、悔しい。
 対等でありたいのに、いつまでたっても下級者として扱われているような気がしてならない。ヴァレリーはそのようなことを、考えて相手をしているわけではないことくらい、分かっているのだが。
 何故、三年早く生まれなかったのだろう。
 この差だけは、どう足掻いても埋めることはできない。クロヴィスが今のヴァレリーの視点に立つ頃には、彼はまた一段階上の場所からクロヴィスが追いかけてくるのを、ほくそ笑んでいるに違いないのだ。
 想像すると実に腹立たしい。
 いいから黙って待っていてくれたらいいのだ。
 勾配を上がりきって、林道を抜ければ開けた空間に躍り出る。
 正面に連なる霊峰の残雪は、夕陽を照り返して紅に染まっていた。その情景を瞳に焼き付け、クロヴィスは前方の三叉路を見据え、
「いつか、お前と肩を並べて追い越してみせる」
 呟けば、耳聡くそれを拾い上げたヴァレリーがため息をついた。
「私より大きくなるのはやめてくれ。今の身長のままでいいではないか。黙っていれば、実に可愛げがある」
 クロヴィスは瞳を瞬かせる。
「可愛さのあまり助けてしまうほどに?」
「……」
 ヴァレリーは一瞬固まって、改めてクロヴィスへと視線を移した。
「……怖いから何とか言ってくれ」
「クロヴィスは、成長しない方がいいのではないかね」
「何故?」
「大人の世界は汚いぞ」
「は? そんなの、分かり切っているだろうに」
 ヴァレリーの言わんとしていることが分からず、クロヴィスは首を傾げた。
 貴族として生まれ。大人の汚い部分を多々目撃してきた。交渉。駆け引き。取引。時には我が子さえ道具に、舌戦を繰り広げる貴族。
 派閥争いとは無縁の中立を貫くエルロンド家も、時にその舞台に引きずりだされることもある。
「分かっている、ねえ……」
 三叉路までたどり着き、クロヴィスは馬の手綱を操り、鼻面の向きを変える。
 この三叉路が、丁度、ヴァレリーとクロヴィスの屋敷への分かれ道だった。馬の腹を軽く蹴り、歩みを進めればヴァレリーが不思議そうに、背後から声をかけた。
「どうした。何故そっちの道へ行く。こっちだろう」
 クロヴィスは立ち止り、ヴァレリーを振り返った。
 何か間違えたのか、と三叉路と、ヴァレリーと、己の進むべき道を順に見つめる。何もおかしなところはない。
「私の家はこっちだろうが」
 さも、当たり前のように言われ、クロヴィスはきょとんとヴァレリーを見つめた。澄んだ碧眼は、ただ純粋に、クロヴィスの進むべき道について疑問を感じているようだ。
 クロヴィスは立ち止り、とりあえずヴァレリーを凝視する。
「どうした。何故立ち止る」
「……いや。悪い。何か、面白くて」
「何か面白いことでもあったか」
 無自覚に言ったのか。
 クロヴィスはついにこらえ切れなくなり、茜の空に向かって笑いだした。
「そういう言葉は、俺ではなく付き合っている相手にでも言ってやれ」
「……」
 その言葉で、ヴァレリーは自らの発した言葉のおかしさに気付いたのか、苦々しく眉間に皺を寄せて、そして両手で顔を覆った。
「今のは、なかったことにしてくれ。お前、家に来るって言わなかったっけ? 言ってない、そうか言ってないな! じゃあチェスでもするか」
「行くぞ! 早く来い!」
 チェスの言葉につられたクロヴィスは、ヴァレリーよりも先に駆けだしていた。


ーーーーーーーーーーーー
ドラゴンと騎士企画より

一部のキャラクターをお借りしています。
登場人物:レダ、ヴァレリー、クロヴィス

クロヴィスとヴァレリーは友達同士でした(過去形)。
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