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since 2008/9/17 ネットの片隅で妄想全開の小説を書いています。ファンタジー大好き、頭の中までファンタジーな残念な人妻。 荻原規子、上橋菜穂子、小野不由美 ←わたしの神様。 『小説家になろう』というサイトで主に活動中(時々休業することもある) 連載中:『神狩り』→和風ファンタジー 連載中:『マリアベルの迷宮』→異世界ファンタジー 連載中:『お探しの聖女は見つかりませんでした。』→R18 恋愛ファンタジー 完結済:『悪戯なチェリー☆』→恋愛(現代) 完結済:『花冠の誓いを』→童話 完結済:『変態至上主義!』→コメディー
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別の世界に旅立っちゃうんだぜ

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一度目に出会った時は、まだほんの小さな頃で、ぼんやりとしか思い出せない。
 亜麻色の髪の、フィアフィルの麓に広がる深い森に似た、優しい目をした人間の子供。どこか幼さを面影に残した少年は、母の半身とも言うべき存在だった。
 母は生まれた頃から少年と共にあり、少年と同じ時を過ごした。姉のように、妹のように。大きな翼で少年を守り、少年と共に幾多の戦場を駆けた。
 彼の名前は――
 二度目に会った時は、フィアフィルの山中だった。
深々と積もる真雪の中、頼るものもなく、彷徨っている時のことだ。
時々、何の前触れもなく荒々しい集団が現れては、血相を変えて山脈中を歩き回っていた。その手には、様々な武器が握られている。剣、槍、弓。母が過ごした場所では、珍しくもないその武器だが、錆ひとつない、鈍い光をたたえるそれが、幼竜には恐ろしく思えた。
 人に慣れ、警戒心を持たない同族の竜が近付けば、彼らは透明な瓶から、怪しげな薬を取り出し、竜へと降りかけた。途端に竜はのたうちまわるように苦しみ出して、木々をなぎ倒し、地面を抉ったあとで、ぱたりと大人しくなった。
 そして、次の瞬間には何事もなかったかのように、彼らに首を垂れていた。
 如何に人に慣れているとはいえ、簡単に生涯の半身を決めたりはしない――
 誇り高き、霊峰フィアフィルに息づく竜の言葉だ。
 自らが認めた者にしか、首は垂れぬ――
 母は、少年を誇りに思っていた。
 ぼんやりと思いだした教訓と、目の前の光景は全くもって繋がりを持たなかった。
 半身を得ることは、もっと、楽しくて、幸せなことだと幼いながら思っていた。
 楽しそうには見えない。ただひたすら、苦しみを与えられるだけ。
彼らの前に、出て行ってはいけない。
幼竜は、金色の瞳を瞬かせた。
 そんな日々が、延々とこれからも続いていくのだろう、幼いながらも、竜は漠然と考えていた。
 しかし、転機は突如訪れる。
 身も心も凍えるような、霊峰フィアフィルの山中で、この世の絶望を知ったような顔をした、人間たちが現れた時のことを今でも鮮明に覚えている。
 幼竜は、それがあの少年だと一瞬で気づいた。同じ匂い、同じ目をしていた。ただ、あの頃よりも少し大きくなっていて、優しかった目が今ではその光を無くし、曇っていることだけが竜を躊躇わせた。
 しかし、その手に握られているのは剣ではない。少年は唯一、武器を手にしていない者だった。
 奪いに来たのではない、竜はほっと尻尾を垂らした。
 武器を持たない代わりに、彼はなぜか、両手で抱える程度の大きさの、木を丸く加工した、不思議な道具を背負っていた。
 幼い竜は見たこともないそれに、一瞬で心を奪われる。
 夜、狂い咲くような月の下、辺りが静寂に包まれる頃。
 何の警戒心を抱かず、ひょこひょこと青年に近寄ると、脇に置かれたそれに、そーっと触れてみた。弓形に張られた糸のようなものが三本。爪で弾く。
 聞いたことのない、変な音がした。それが面白くて、青年が寝ているのも忘れて、夢中で音を掻きならした。はじいたり、たたいたり。しかし出る音は、やはり変だ。
 はしゃぐ幼竜に、さすがの青年も眠っていられなかったようで、苦笑を浮かべつつ起き上がる。
「ヴァイオリンが珍しい?」
 竜が首を傾げると、彼は眉根を寄せ、目を眇めた。
「ヴィーと同じ反応だ」
 どこか苦しいのか。痛いのか。
 泣きそうな顔で、竜の頭を撫でる。
――その手は、ひどく温かい。
「こんなものに興味を示すなんて、お前、変わっているな。そうだ。それじゃあ、一曲聴かせてあげようか」
 そう言って、彼は弓を取り出した。
 彼が奏でる音は、不思議と心地よい。竜が奏でた、不協な音ではなくて。
 その音色を子守唄に、竜は久しぶりに穏やかな夜を過ごした。
 あくる日。
 青年は、竜を無理やり従えようとしている一団に目をとめた。最近は連日のように現れるやつらは、今日も山脈の竜を狙って、服従の薬を使おうとしているようだった。
 青年は剣を取る。
 その剣は、竜が見てきたどんな剣よりも、美しく、気高かった。
 竜を従えることに夢中な奴らは、青年の存在に全く気付いていないようだ。
 青年は、気配を殺し、雪の上を滑るように、彼らの背後へ忍び寄る。雪の中に埋もれ、ことの成行きをじっと見極める幼い竜は、彼が通り過ぎた瞬間に、鱗がぞわりと波立つのを感じた。
 怒っている。肌で感じるほどの激情に、幼竜は目を瞠る。
 青年は迷いのない太刀筋で彼らを切りつけると、虫けらでも見るかのような目で、やつらを見下ろし嘲るように呟いた。
「実力主義、か。笑わせてくれる。力を持たぬもの故、服従の薬に頼ったか。いや、ある意味……それも実力か」
 斃れた肉塊を足蹴にし、薬入りの瓶をたたき割る。
「ヴィオラは――ドラゴンは、貴様らの玩具ではないというのに……。勝てれば、本当に何でもいいのか」
 幼竜は、瞳を瞬かせた。
 ――ヴィオラ。
(おかー……さん)
 その名に誘われるように、雪の中から這いだした。
 突如現れた幼竜に、青年は驚いたようだが、幼竜は興味深く、彼の姿をじっと見上げた。
 よく見ると、傷だらけである。
 曇りなき眼に見つめられ、青年は苦笑を浮かべた。
「お前も、こんな人目につきやすい場所にいては駄目だ。すぐに狩りの対象にされてしまうよ」
 そういって、優しく幼竜の頭を撫でると、彼はすぐさま踵を返した。
 雪上に置いた荷物を取り上げ、少年と少女を連れて、山を登っていく。
(また、置いていくの?)
 嫌だ。
(待って)
 行かないで。もっと……知りたいの――
 もっと、聞かせて。
 名前を呼ばなくては。
 名前を呼んで、引き留めないと。
 しかし、彼の名前を忘れてしまった。
 止むなく、鉤爪で襟首を掴んで、ひきとめる。
振り返る青年は苦笑を浮かべ、寂しそうに鳴く竜の頭を軽く叩いた。
 その手に頭をすりよせれば、不思議なことに安心できた。自然とわきあがる名前を、声に出してみる。
「クロビー……」
「え!?」
「クロビー?」
 驚きに目を瞠る。
 やっと発音できたのは、それだけだった。
 彼の名前は、クロヴィス。
 かつて、母の半身だった人。
 これからは多分、自分の半身になるべき人。
 竜はクロヴィスへ首を垂れた。
 パートナーとして、認めた徴だ。
「……もう一度ドラゴンに乗っても、いいのかな」
 クロヴィスは、泣き笑いのような顔をして、雪の中で反射する深紅の身体を撫でた。竜にはクロヴィスの言葉の意味するところが分からなかったが、尻尾を軽く振ってこたえた。
 この時、アリアという名前をもらう。
 理由はなんでも、G線上のアリアをきっかけにくっついてきたから、だそうだ。
 単純明快な理由だ。
 そんな竜は今、戦場を駆ける竜となった。
「ごめんねアリア。今日もまた、戦わないといけない」
 銀の鎧を身につけたクロヴィスが、アリアへこつん、と額を寄せる。
 クロヴィスを待つ、狙撃隊の二クスがあくびをこらえてそのやり取りを見ていた。
(アリアは大丈夫だよ。クロヴィスのためなら、何でもできるよ。クロヴィスを守るためなら、頑張るよ)
アリアは、クロヴィスの言葉は理解できても、うまく返せない。発することができるのは、覚えた人の名前と、簡単な単語のみである。
 時々、とても悲しそうな顔をする片割れを、アリアは黙って見守ることしかできない。
(どこか痛いの? どこか苦しいの?)
 ――アリアが、クロヴィスの痛みを全部引き受けてあげられたらいいのに。
 アリアの思いは、届かない。
 「人の言葉なんて覚えなくてもいい」、そう言ったのはクロヴィスだった。
 人の勝手な都合で、アリアが言葉を覚える必要なんてない。アリアが覚えたいと思うのなら、覚えればいい。無理強いはしないよ――
 優しく頭を撫でて、クロヴィスはアリアに言う。
 クロヴィスは優しくて、好き。
 アリアが寂しくてないた時は、任務の最中でも一晩中隣にいてくれた。
 アリアが初めての飛行訓練で怖気づいた時は、安心するまで背中を撫でてくれた。
 アリアもクロヴィスの背中を撫でて元気づけてあげたいが、鉤爪が鋭すぎて逆にクロヴィスを傷つけてしまう。
 クロヴィスが寂しそうにしている時は、背中を押して他の騎士の中に入れるが、それもなぜか逆効果だった。
(アリアがクロヴィスに与えられるものは、何?)
「敵の補給路を断つ、奇襲作戦だ。気を引き締めて行くよ、アリア」
 クロヴィスがアリアにまたがり、号令とともにアリアは翼を広げて飛び立つ。
 今日も、クロヴィスと共に、同じ景色を見られる。
それが、アリアの幸せだった。


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ドラゴンと騎士企画より

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