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since 2008/9/17 ネットの片隅で妄想全開の小説を書いています。ファンタジー大好き、頭の中までファンタジーな残念な人妻。 荻原規子、上橋菜穂子、小野不由美 ←わたしの神様。 『小説家になろう』というサイトで主に活動中(時々休業することもある) 連載中:『神狩り』→和風ファンタジー 連載中:『マリアベルの迷宮』→異世界ファンタジー 連載中:『お探しの聖女は見つかりませんでした。』→R18 恋愛ファンタジー 完結済:『悪戯なチェリー☆』→恋愛(現代) 完結済:『花冠の誓いを』→童話 完結済:『変態至上主義!』→コメディー
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別の世界に旅立っちゃうんだぜ

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日常
午後の陽射しは次第に濃くなり、僅かに窓から吹き込む風が心地よい。横目でちらりと外を見れば、狭い室内にいるのが馬鹿馬鹿しく思えてくるほどに、清々しい群青が広がっていた。
 空に浮かぶ雲は白く輝いて、クロヴィスは目を眇めてその様を眺める。その雲を突き抜けるようにして聳える峰の頂には、夏の今でもなお、白雪の影が残っていた。いつもならば、稜線が遠目にぼんやりと浮かぶ程度にしか望めない霊峰フィアフィルが、ここまでくっきりと姿を現すとは珍しい。あそこでアリアと出会ったのを思い出し、つい感慨にふける。
 アリアの翼があれば、彼方のフィアフィルでさえ、瞬く間にたどり着く。クロヴィアを乗せていない時のアリアが全力で飛ぶ姿は、深紅の閃光のようで、美しかった。黄昏の中を低速で飛ぶ姿は舞うようで、アリアの紅と薔薇色の空が溶けあい、それもまた心を奪われる。
(いい天気だ)
 現実逃避しかけたところで、クロヴィスは頭を振った。
 今の状況に集中するべきだ。クロヴィスの目の前に座るのは、今年下級騎士になったばかりの、真新しい白い騎士服に身を包んだ新人騎士達十五名。年齢層はまばらで、上は三十、下は十くらいだろうか。
 己が騎士団に入りたての頃を思い出す。その時は、ここではなく、ここと敵対関係にある場所で、騎士になった自分を誇りに思っていた。昔のことである。
 動物調教用の、40㎝ほどの長さの黒い鞭を手持無沙汰に弄び、クロヴィスは話しを続ける。
「人間の急所がいくつかあるのはご存じでしょう。首、頚椎、胸、右腹部上方、両側背部、上肢、下肢……。特に胴体は心臓、肝臓、腎臓などの急所が集中しており、的も広く狙いやすい。肝臓、腎臓には多くの血管が集まっているので、損傷すれば大量出血を起こし、生命の危機に直結します。敵の情報を引き出したい時には――」
 彼は優雅に、机と机に挟まれた、狭い講堂の通路を歩いた。クロヴィスの重みで、ぎしり、と床が軋む音がする。
 昼飯を食べ、丁度腹も膨れた頃に机上の理論を延々と聞かされ、彼らの大半は、瞼が重くなり始めていた。クロヴィスの折角の美声も、もはや子守唄と同じ効果を発揮しているらしい。
(仕方ない……とはいえ、これは酷い)
 確かに、つまらない話かもしれない。単調な口調で語られては、眠くなって当たり前だろう。だが、こちらも貴重な時間を割いて教えに来ている。眠っていて何も学べませんでしたでは困る。
 とろんとした目で船を漕いでいるものの机を、手にしていた鞭でピシっと叩く。叩かれた騎士は、反射的に涎の垂れた顔を勢いよく上げた。クロヴィスの木漏れ日の瞳と視線がぶつかると、頬を染め、気まずそうに教本で顔を隠した。
 クロヴィスは片眉を上げ、薄い唇を釣り上げた。
(一応、恥じらいはあるのか)
「いいですか。君たちは騎士です。涎を垂らしていようが、夢の世界に旅立とうが、それだけは変わりません。騎士である以上、戦わなければなりません。食欲が満たされ、睡魔が君たちを誘惑しようと、それに打ち勝って、目の前の相手を倒すことに全力を注がなければなりません。戦場ではひとりの行動が、全員の命を危ぶませ、全員の命を救います。今ここで、君たちが眠ったところで、現状、何かが起こるわけではありません。しかし、戦場ではひとりが眠ったことで、全滅することなど珍しくない。私が今ここで教えているのは理論です。理論などつまらない――君たちはきっとそう考えているでしょう」
 ゆっくり講堂内を歩き、眠りに落ちそうな騎士の机を、鞭で叩いて回る。そのせいか、クロヴィスが通るたびに、下級騎士の間に緊張が走るようだった。
「その通り、理論は実践してこそ意味あるもの。その理論を知らなければ、実践しようもないわけですけれどね」
 口元に笑みを張り付けたままあたりを見渡す。その緑の瞳はどこか冷たく、皮肉気に騎士達を映していた。冷たい視線を向けられて、彼らは固まってしまう。
 また、やってしまったか。
 空気が冷え冷えとし、場が固まってしまったその時である。
「クロ、しごと。アリア、まってる」
 寂しそうなアリアの声が隣の騎士寮の中庭から響く。ちらりと外をのぞきこめば、書類を抱えたミュリエルと何やら話している。
 すると、ミュリエルはポケットから綺麗な銀色の包み紙に包まれた、お菓子を取りだし、アリアにあげていた。
(アリア……本当にごめん、ミュリエルもごめん)
 クロヴィスは内心謝りつつ、話しを続ける。
「私のパートナー、アリアは、理論を学ぶのが嫌いでして――」
 本来ならば、クロヴィスも今日は非番だった。偵察の任務を終えたばかりで、ようやく掴んだ休暇であったのだ。
 久しぶりに、アリアとカートライドの泉に行く約束をしていたのに、急遽仕事が入ってしまったのだ。今日指南を担当するはずだった騎士が、補給部隊に駆り出されてしまったため、代役を頼まれたのだった。
 白地に金の飾りのついた騎士服に袖を通すクロヴィスを、アリアは不思議そうな眼で眺めていた。きっと、『遊びに行く約束をしたはずなのに、何故クロビスは仕事の服に着替えているのか分からない』と思っていたのだろう。
 アリアは、人語は解するが、話せない。話せても簡単な単語と、人の名前を言えるだけである。クロヴィスも、アリアへ人語を話すことを強要しない。アリアが話したかったら、人の言葉を話せばいいし、話せなかったらそれでもいい。何より、フローレンスがいる。困ったら彼女を頼ればよいだけの話だ。
 アリアに背を向けるクロヴィスへ、アリアは甘えるように『クロビスー』と呼びかけ、軽く頭を押し付けてきた。そして長い尾をぶんぶん振り回して、乗れと言わんばかりに主張してきた。早く泉に行きたくて仕方なかったのであろう。
 そんなアリアに、仕事が入ったと告げるのは、大変心苦しかった。しかも、アリア同伴の仕事ではない、机上の講義である。アリアはしゅんと背中を丸め、クロヴィスに言われるがまま、騎士寮の中庭で待つことになった。申し訳ないと思いつつも、アリアならば他のドラゴンと仲良く遊べるだろう、他のドラゴンが寄ってきてくれれば自分もそのまま遊ぼうと、クロヴィスはそのまま仕事に向かったのだ。
 心を鬼にして仕事に来たのはいいものの、騎士寮の中庭にぽつんと佇み、講堂を見上げてくるアリアが視界にたびたび入ってきていた。
 いつものうるさいくらいの人懐っこさはどこへいったのか、騎士寮からイルとジーク騎士長が出てきても、アリアは興味を示さずに、ずっとクロヴィスのいる建物を見上げていた。
(こうなったら、さっさと終わらせるしかない)
 パートナーのドラゴンのことが絡むと、人が変わるクロヴィスである。表面上は冷静なまま、クロヴィスの脳内は既にアリアと遊ぶことで一杯であった。
 仕事を終え、中庭に急げば、人型になったフローレンスが、アリアの隣にしゃがみ込んでいた。アリアの興味はクロヴィスではなくて、フローレンスへ向いてしまったらしい。心中、複雑な思いで近寄れば、アリアは地面に何かを刻みつけていた。
「クロビス、アリア」
「そうそう、アリア上手です」
「アリア?」
 声をかければ、アリアがうれしそうに振り返る。
「クロビス!」
 尻尾をぶんぶん振り回し、アリアは空に向けて軽く炎を吐きだした。うれしさのあまりの行動だろうが、上空を飛んでいたノルニルが突然の炎のブレスに驚いている。
「良かったですね、アリア。あ、クロヴィスに見せてあげたらどうですか?」
 そう言って、アリアが見せてくれたのは、泥の塊を団子状に丸めたものだった。何となくいつもクロヴィスが与える焼き菓子に似ている。
「はい」
 何かを期待しているのか、アリアはじっとクロヴィスを見下ろしてくる。
 いくらアリアのことが大切でも、さすがに泥は口に入れられない。クロヴィスの額に冷や汗が滲む。数秒考えた後に、アリアの作ったものならば泥だんごだろうと構わない、と手を伸ばすが、そこですかさず、フローレンスが止めに入ってきた。
 アリアは小首を傾げ、目を瞬かせ少し考えてから、合点がいったようだ。のそのそと退くと、得意げにそれを見せてくれた。
(……?)
 地面に『クロヴィス・アリア』とミミズの這ったような字で書かれたところに、歪なハートと三角形が描かれている謎の印だった。
 一瞬、何かの呪いかと慄いたが、当のアリアは金色の瞳を輝かせて、クロヴィスの背中に頭をすりよせてくる。
「アリア、これは何?」
「クロビス、アリア、いっしょ!」
「当然だろう? ずっと一緒だよ」
 クロヴィスは、先ほど指南を担当していた下級騎士達が見たら間違いなく、『誰だ、お前』と言われるような眩しい笑みを浮かべ、アリアの頭を撫でた。
 後でフローレンスに聞いたところによれば、あの呪いに似た謎の印は、相合傘とのことだった。
 ミュリエルが冗談で地面に描いていったものに興味を示し、真似たのだという。




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ドラゴンと騎士企画より
登場人物:クロヴィス・エルロンド、アリア
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