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・彼女の子分ができたわけ。
その時は、丁度塾の帰り道で、ちょっとゲーセンでも寄ってストレスでも発散しに行くかという話になった。
私も蘇芳も私服。その時は確か、冬で、紺色のダッフルコートを羽織っていたのかな。
まあ確かに、髪も短いボブで、前髪はパッツン、顔はよく見えなかったかもしれない。
でもさ。
私を男と間違えるのって、酷くない?
いつもみたいにUFOキャッチャーで蘇芳と遊んでたら、五、六人くらいの集団が来た。
私は、そいつらになんとなく見覚えがあった。結構人の顔を覚えるのは得意でね。
同じ町内の中学生で、確か西中剣道部の奴だと思った。大会で見たことのある奴ら。
私に近寄ってきたから、私にも気付いてあいさつでもしてくのかな、と思ってたら違うんだ。
肩にごっつい手を置いて、
『ちょっと金かしてくれないかなー、お兄ちゃん』
まず第一声がそれ。
ムカついたから振りかえりざまに辞書入ってる鞄で顔面殴ってローキックかましてその場に全員うずくまらせてやった。
『私は女だ馬鹿野郎、受験生様にかつあげなんていい度胸だな。土下座して謝れ』
『げっ、あんた、北中の鬼塚さん……!』
『北中をまとめ上げるという、あの鬼!』
『誰が鬼だこの野郎!』
『それで、隣の奴は……有沢蘇芳だ!』
『あの北中の影の帝王とか言われる人か!』
影の帝王なんだって。私は詳しく知らないけど。周りの奴らは、無口な蘇芳には人に言えない裏の顔があるとか勝手に噂してて、それが背びれ尾びれついて他校生にまで伝わっていたらしい。
『まさか、鬼は影の帝王さえも従えているのか!』
『ねえやめて! 何かその言いまわし、こっちが恥ずかしくなるからやめて! お前らそんな痛いこと言ってて恥ずかしくないの?』
『リアル中学生だから許される言葉なんだよ!!』
『やめてそういうメタ発言! お前らひたすら痛い!』
『影の帝王が無言の時は、邪気眼が発動するのを我慢しているときだ! みんな逃げろ!』
『お前ら絶対面白がってるだろ!』
そんな馬鹿なこと言われているのに、蘇芳は何も言わなかった。それが余計恐怖をひきたてるらしい。
『もういいから。土下座で許してやるから、お前ら家帰って受験勉強しろよ』
『勉強なんて、意味ないっすよ』
『今の社会話術と個性があれば生きていけます』
は?
社会なめんなよ、と思ったが私は必死にこらえた。ここでまたこいつらに何かしたものなら、いらぬ噂が立つに決まっている。
『お前、それでいいと思ってんのか? お前みたいな奴のこと、社会はただの歯車程度にしか思ってないんだぞ? どこかの会社とか工場入って働いて、上のやつらにいいように使われて、最後使えなくなったら捨てられるんだぞ? 馬鹿だとな』
『別にー生きてればいいじゃーん』
『そりゃあお前たちみたいな馬鹿がどうなろうと知ったことじゃないがな。馬鹿はただひたすら損だ。ただの道具と同じ扱い。お前らみたいな馬鹿は何故か逆淘汰で量産されるから、労働力には全然困らない。だからいつでも切り捨てられる。そしていつもぎりぎりを生きなきゃならないんだぞ。だがな、頭のいいごく一部の人間は違う。どこに行っても必要とされ、どこに行っても生きていかれるそうだろう? 希少価値だからだ。馬鹿とは違って! だから勉強して、色んなことを知っていたほうがいい。もっと高みを目指したほうがいいんだよ! 馬鹿はな、何にもしらないから、労働基準法で定められた労働時間以上働かされて、安い自給で満足してる。お前らそれでいいのか! 社会のクズとして一生生きるつもりなのか! いいから、しっかり勉強しろ!』
『なるほど……確かに馬鹿だと世知辛い社会になりつつあるな』
『そうか……俺今まで自分に限界を設けていたのかもしれない……』
『俺もだ』
アホすぎる。
そう思っても、私は黙って奴らを観察していた。
『それにしても、噂に違わず強いんスね、ヅカさん。ここらの不良しめたってのは本当すか?』
『ヅカって呼ぶのやめてくれない? 何かヅラみたいでいやだから』
『それじゃあ、番長っておよびしてもいいっすか?』
『一生ついていきたいです!』
『いや、くるなよ』
しかしどうしても食い下がってくる奴らに負けて、私は一つの条件を突き付けた。
もし、私と同じ高校に入学できた暁には、お前たちに私のことを番長と呼び慕う許しを与えようと。
そしたら本当に入学してきやがった……!
馬鹿にしていたんだ、私は!